大嘗祭(だいじょうさい)とは、天皇が即位した後に一度だけ行う、皇室にとって極めて重要な祭祀です。その年に収穫された新穀を皇祖や天神地祇に供え、天皇自身もこれを召し上がり、国家と国民の安寧、五穀豊穣を祈ります。毎年行われる新嘗祭を、天皇の代替わりに際して特別な規模と形式で行うものと理解すると、その意味がつかみやすくなります。
令和の大嘗祭は2019年11月14日・15日に皇居で行われました。中心となる大嘗宮の儀では、悠紀殿と主基殿で二つの供饌の儀が執り行われ、その後には白酒・黒酒を用いた大饗の儀も行われています。一方、約27億円とされた費用や、憲法20条の政教分離原則との関係は、開催のたびに議論になる論点です。2026年11月現在の制度、歴史、実施内容、費用の実績を整理します。
【大嘗祭とは】意味・由来と新嘗祭との違いをわかりやすく解説
大嘗祭の意味は天皇が新穀を神々に供え、国の安寧を祈ること
大嘗祭は「だいじょうさい」と読みます。天皇が即位した後、初めて行う特別な新嘗祭であり、皇位継承に伴う一代一度の重要な祭祀です。
宮内庁の説明によれば、大嘗祭では天皇が大嘗宮の悠紀殿・主基殿において、新穀を皇祖および天神地祇に供え、自らも召し上がります。そして、皇祖や神々に対して、安寧と五穀豊穣を感謝するとともに、国家と国民のために同じ願いを祈念します。
ここでいう新穀とは、その年に収穫された新しい穀物のことです。米を中心に、農業や自然の恵みに対する感謝が祭祀の根底にあります。
大嘗祭の意味を理解するうえで大切なのは、単なる即位記念の祝賀行事ではないという点です。天皇が神々に新穀を供え、自らも食するという行為を通じて、皇室の祭祀と日本の農耕文化、国民の暮らしを結びつけています。
大嘗祭の由来は古代の稲作文化と天皇の祭祀にある
大嘗祭の歴史は古代にさかのぼります。成立時期については研究上の見解に違いがありますが、天武天皇の時代である7世紀後半に起源を求める説が有力です。
『日本書紀』には天武天皇の時代に大嘗に関する記録が見られます。その後、持統天皇の時代に、即位に伴う一代一度の祭祀としての形式が整ったとする研究があります。
京都宮廷文化研究所などの歴史研究では、天武天皇の時代には新嘗に関する祭祀が大嘗祭と呼ばれることもあり、持統天皇の時代に即位時の祭祀として整理されていった経緯が紹介されています。
こうした変遷の背景には、稲作を社会の基盤とする古代日本の価値観がありました。収穫は人々の生活を支えるだけでなく、共同体の安定にも直結する重要な出来事だったのです。
大嘗祭には、米だけでなく粟などの穀物や各地の産物も関係します。國學院大學の研究者による解説でも、米や粟、地方の農林水産物を供えることが、列島の自然の恵みと人々の暮らしを象徴するものとして説明されています。
毎年行われる新嘗祭との違い
大嘗祭と混同されやすい行事に、新嘗祭(にいなめさい)があります。どちらも新穀を神々に供え、収穫に感謝する祭祀ですが、実施される機会が異なります。
- 新嘗祭:毎年行われる宮中祭祀。その年の新穀を神々に供え、収穫に感謝する。
- 大嘗祭:天皇の即位後に一度だけ行われる特別な祭祀。新嘗祭と共通する要素を持ちながら、悠紀・主基の斎田を設けるなど、特別な形式で執り行われる。
つまり、大嘗祭は毎年の収穫を祝う行事ではありません。天皇の代替わりという特別な節目に、新しい天皇が初めて新穀を神々に供える祭祀です。
【大嘗祭はいつ行われる?】歴史と歴代天皇による実施の変遷
開催時期は天皇の即位後、原則として秋の収穫期
大嘗祭は、天皇の即位後に行われます。毎年決まった日に開催されるものではなく、新しい天皇が即位する際に、その代替わりに伴う一度限りの祭祀として準備されます。
歴史的には秋から冬にかけて行われてきました。新穀を供える祭祀であるため、収穫期との関係が深く、現代でも11月に実施された例があります。
2019年の令和の大嘗祭では、中心儀式の大嘗宮の儀が11月14日・15日に行われました。ただし、毎回必ず同じ日付になるわけではありません。即位の時期や準備、先例などを踏まえて日程が決められます。
歴代天皇の大嘗祭は必ずしも途切れず続いたわけではない
大嘗祭は長い歴史を持つ皇室祭祀ですが、歴代天皇のすべての代で例外なく行われたわけではありません。
皇學館大学の佐川記念神道博物館の解説によると、1466年の後土御門天皇の大嘗祭から、1687年の東山天皇の大嘗祭まで、約220年間にわたる中断がありました。
この背景には、南北朝期以降の戦乱や皇室の財政的困難がありました。祭祀を執り行うための人員や施設、物資を整えることが難しかったのです。
1687年に東山天皇のもとで再興された後も、中御門天皇の時代には実施できず、1738年の桜町天皇の大嘗祭で再び再興されました。その後は近世から近代、現代へと継承されています。
この歴史から分かるのは、大嘗祭が単に古い形式を保存してきた行事ではないということです。政治情勢や財政事情によって中断や再興を経験しながら、皇位継承に伴う祭祀として受け継がれてきました。
2026年現在、次の大嘗祭の日程は決まっている?
2026年11月現在、大嘗祭は毎年開催される予定の行事ではありません。2019年に行われた令和の大嘗祭が、現在の天皇陛下の即位に伴う一度限りの祭祀に当たります。
次回の大嘗祭は、将来の皇位継承に伴って実施される性質のものです。したがって、2026年の定例行事として開催されるものではなく、次回の日程も定まっていません。
「大嘗祭は何年ごとに行われるのか」という疑問への答えは、数年おきでも10年おきでもなく、天皇の代替わりに伴って一度行われる、ということです。
【大嘗祭の儀式の流れ】悠紀殿・主基殿と大嘗宮の儀を解説
大嘗宮とは何か?祭祀のために設けられる特別な施設
大嘗宮(だいじょうきゅう)とは、大嘗祭を執り行うために設けられる施設です。中心となる建物が悠紀殿と主基殿であり、その周囲に祭祀に必要な建物や設備が配置されます。
令和元年の大嘗祭では、皇居・東御苑に大嘗宮が設営されました。通常の宮殿施設をそのまま利用するのではなく、大嘗祭のために特別な空間を設ける点が特徴です。
大嘗宮は恒久的な建築物ではありません。2019年の例では、儀式終了後に解体されました。この一度限りの使用という性質も、建設費用や環境面の議論につながっています。
悠紀殿と主基殿の役割は何が違う?
悠紀殿(ゆきでん)と主基殿(すきでん)は、大嘗宮の中心となる二つの神殿です。
それぞれ、悠紀地方と主基地方から選ばれた斎田で収穫された新穀を用いて、供饌の儀が行われます。二つの神殿で行われる儀式の基本的な趣旨は共通しています。
- 悠紀殿:悠紀地方で収穫された新穀などを供える神殿。
- 主基殿:主基地方で収穫された新穀などを供える神殿。
二つの神殿で別々に儀式を行うことには、東西の地域から選ばれた新穀を供えるという意味があります。特定の地域だけでなく、広い地域の農業や収穫を祭祀に結びつける仕組みです。
大嘗祭の中心となる大嘗宮の儀の流れ
大嘗祭の中心的な儀式が、大嘗宮の儀です。これは、悠紀殿供饌の儀と主基殿供饌の儀という二つの儀式から構成されています。
全体の流れを整理すると、次のようになります。
- 斎田点定の儀:悠紀地方と主基地方を選定する。
- 斎田の準備:選ばれた地域で神饌に用いる新穀を栽培する。
- 斎田抜穂の儀:収穫期に稲を刈り取り、大嘗祭に供える新穀を準備する。
- 悠紀殿供饌の儀:悠紀殿で新穀などを神々に供え、天皇も召し上がる。
- 主基殿供饌の儀:主基殿でも同様の趣旨の儀式を行う。
- 大饗の儀:参列者とともに新穀から調製した酒や料理をいただく。
なお、斎田の選定や収穫などの準備行事は、大嘗宮の儀に先立って行われます。そのため、大嘗祭は11月の二日間だけで完結する行事ではなく、数か月にわたる準備を伴う一連の祭祀です。
大饗の儀で供される白酒・黒酒とは?
大饗の儀(だいきょうのぎ)は、大嘗宮の儀が終わった後に行われる饗宴です。
宮内庁の説明では、天皇が大嘗祭の参列者に白酒(しろき)・黒酒(くろき)と酒肴を賜り、ともに召し上がる儀式とされています。
白酒と黒酒は、大嘗祭における伝統的な酒です。新穀を用いた酒を参列者とともにいただくことによって、収穫への感謝と豊作への願いを分かち合います。
2019年には11月16日と18日の二日間、宮殿の豊明殿で大饗の儀が行われました。大嘗宮の儀とは別の場所で、参列者を迎える儀式として実施された点も押さえておきたいところです。
【2019年の大嘗祭を振り返る】令和の実施内容と関係する儀式一覧
令和元年の大嘗祭は2019年11月14日・15日に実施
令和の大嘗祭は、徳仁天皇の即位に伴って2019年に行われました。
2019年5月1日の即位後、10月22日には即位礼正殿の儀が執り行われ、11月10日には祝賀御列の儀が行われました。そして11月14日・15日に大嘗宮の儀、16日・18日に大饗の儀が続きました。
宮内庁が公表した記録では、即位礼正殿の儀などは国事行為として実施された一方、大嘗祭は皇室の行事として行われています。この区別は、後述する憲法上の論点を考えるうえでも重要です。
悠紀斎田は栃木県、主基斎田は京都府に決定
2019年の大嘗祭では、神々に供える新穀を育てる地域として、東日本の悠紀地方に栃木県、西日本の主基地方に京都府が選ばれました。
2019年5月13日に斎田点定の儀が行われ、両地方が決定しました。その後、具体的な斎田の所在地や耕作者が発表され、栃木県高根沢町では「とちぎの星」、京都府南丹市では「キヌヒカリ」が栽培されました。
この二つの地域から新穀を供える仕組みは、大嘗祭が皇室だけの閉じた儀式ではなく、各地の農業や地域社会とも関係していることを示しています。
大嘗祭と即位の礼の違いを比較
大嘗祭と即位の礼は、どちらも天皇の代替わりに関係する重要な儀式ですが、目的も性格も異なります。
| 関連する要素 | 内容・役割 | 大嘗祭との関係 |
|---|---|---|
| 大嘗祭 | 即位後に一度行う皇室祭祀 | 新穀を神々に供え、安寧と五穀豊穣を祈る一連の行事 |
| 即位礼正殿の儀 | 天皇の即位を公に宣明する国の儀式 | 大嘗祭とは目的も法的性格も異なる |
| 大嘗宮の儀 | 大嘗祭の中心的儀式 | 悠紀殿供饌の儀と主基殿供饌の儀で構成 |
| 悠紀殿 | 悠紀地方の新穀を供える神殿 | 大嘗宮の儀の前半を担う |
| 主基殿 | 主基地方の新穀を供える神殿 | 大嘗宮の儀のもう一つの中心となる |
| 悠紀斎田・主基斎田 | 新穀を栽培する二つの地域の田 | 神饌に用いる米を生産する |
| 大饗の儀 | 参列者と酒や料理をともにする饗宴 | 大嘗宮の儀の後に実施される |
| 宮廷費 | 皇室の公的活動などに充てる予算 | 2019年の大嘗祭関係費の財源となった |
最も大きな違いは、即位の礼が「天皇に即位したことを国内外に公に示す儀式」であるのに対し、大嘗祭は「新穀を神々に供え、天皇自身も召し上がる祭祀」であることです。
両者は皇位継承に伴う一連の行事として関係していますが、同じ儀式ではありません。即位の礼を終えたからといって、大嘗祭まで完了したことにはならないのです。
【大嘗祭の費用はいくら?】約27億円の内訳と宮廷費の仕組み
2019年の大嘗祭関係費は全体想定額27億1,900万円
令和の大嘗祭では、費用の規模も大きな関心を集めました。
宮内庁が2018年12月に公表した平成31年度歳出予算の政府案資料には、大嘗祭関係費の全体想定額として27億1,900万円が記載されています。
このうち2019年度分は18億6,600万円で、大嘗宮の儀、大嘗宮の設営、大饗の儀などに必要な経費が計上されていました。
主な数字を整理すると、次のとおりです。
- 大嘗祭関係費の全体想定額:27億1,900万円
- 2019年度の大嘗祭関係費:18億6,600万円
- 大嘗宮の儀の全体想定額:23億9,200万円
- 大嘗宮設営関係費の当初想定額:19億700万円
- 大饗の儀の全体想定額:2億5,800万円
これらは宮内庁の予算資料に記載された予算・全体想定額です。すべてが最終的な実支出額と一致するわけではありません。予算額と実績額を混同しないことが重要です。
大嘗宮の建設費が大きな割合を占めた理由
大嘗祭の費用で特に大きな割合を占めたのが、大嘗宮の設営関係費です。
大嘗宮は祭祀のために特別に建てられる施設であり、儀式が終われば解体されます。一般的な建築物のように長期間使用することを前提としないため、一度の祭祀のために設営と撤去の両方が必要になります。
宮内庁の予算資料では、平成の大嘗祭と同規模・同じ資材を用いた場合、物価や人件費、材料費の上昇などによって、設営関係費を含む費用が大きくなることが見込まれていました。
そこで、令和の大嘗宮では主要三殿の屋根材を伝統的な萱葺から板葺に変更するなど、施設の簡素化や規模縮小が行われました。宮内庁の資料では、こうした工夫によって約6億円の削減を見込んでいました。
加えて、宗教情報リサーチセンターが宮内庁の発表としてまとめた2020年の報告では、2019年の大嘗宮設営関係費の実績は12億5,500万円だったとされています。当初想定された19億700万円を下回る結果となりました。
つまり、約27億円という数字は大嘗祭全体の当初想定額であり、大嘗宮の設営費だけの数字でも、すべての費目の最終実績を示す数字でもありません。
大嘗祭の費用はなぜ宮廷費から支出されるのか
皇室の費用には、内廷費・皇族費・宮廷費という区分があります。
宮内庁の説明によると、それぞれの用途は次のように異なります。
- 内廷費:天皇・上皇・内廷にある皇族の日常生活などに充てる費用。
- 皇族費:各宮家の皇族が品位を保持するために支出される費用。
- 宮廷費:皇室の儀式、国賓・公賓の接遇、行幸啓、施設の維持管理など、公的活動に必要な費用。
大嘗祭の費用は、このうち宮廷費から支出されました。宮廷費は宮内庁が経理する公金であり、皇室の私的な生活費とは性格が異なります。
この支出方法については、皇室の伝統を維持するための公的な支出として妥当とする政府の考え方がある一方、宗教的性格を持つ儀式に国費を充てることへの疑問もあります。この対立が、憲法上の議論につながっています。
【憲法20条と政教分離】大嘗祭への公費支出は違憲なのか?
大嘗祭は宗教的性格を持つため国事行為とはされなかった
大嘗祭をめぐる重要な論点が、日本国憲法20条の政教分離原則です。
憲法20条3項では、国およびその機関が宗教教育その他の宗教的活動を行うことを禁止しています。また、憲法89条では、宗教上の組織または団体の使用・便益・維持のために公金などを支出することを制限しています。
問題となるのは、大嘗祭が宗教的な儀式としての性格を持ちながら、その費用に公金が使われることです。
政府は2018年の衆議院内閣委員会で、大嘗祭について、その趣旨や形式から宗教上の儀式としての性格を持つことは否定できないとの認識を示しました。そのため、国事行為として実施することは困難であり、皇室の行事として行うという整理を採用しています。
一方、即位礼正殿の儀については、天皇の即位を公に宣明し、内外の代表が祝う儀式であり、国事行為として行われました。
政府は宮廷費からの支出を合憲と整理している
政府の説明では、大嘗祭は宗教的性格を持つものの、皇位の世襲制を採用する日本国憲法のもとで、一世に一度の極めて重要な伝統的皇位継承儀式であることから、公的性格も有すると整理されています。
この考え方に基づき、政府は大嘗祭を皇室の行事として実施し、その費用を宮廷費から支出することについて、憲法20条3項および89条に違反しないとの見解を示しました。
2019年12月17日の参議院における政府答弁書でも、令和元年の大嘗祭は皇室の伝統に従い、先例などを参考にして皇室の行事として行われたと説明されています。
ただし、これは政府による憲法解釈です。宗教的な祭祀に公金を支出すること自体に問題があるとする意見もあり、政府の説明だけで議論が完全に解消したわけではありません。
大嘗祭の公費支出に対する批判と秋篠宮さまの発言
2019年の大嘗祭を前に、費用のあり方については皇室内部からも問題提起がありました。
秋篠宮さまは2018年の誕生日に際した記者会見で、大嘗祭の宗教的性格と公費支出のあり方について疑問を示されました。宗教色が強い祭祀を宮廷費から支出することについて、皇室の伝統を尊重しながらも、費用負担の考え方を検討する必要があるという趣旨の問題提起です。
この発言は、大嘗祭の実施そのものを否定するものではなく、儀式のあり方と国民負担の関係を考えるうえで重要な論点となりました。
公費支出を支持する立場は、皇位継承に伴う重要な伝統的儀式を継承するためには公的な支援が必要だと考えます。一方、批判的な立場は、宗教的性格を持つ行事への国費支出は政教分離の原則との整合性を慎重に検討すべきだと主張します。
この問題を判断する際には、次の三つを分けて考える必要があります。
- 儀式の性格:大嘗祭には宗教的な祭祀としての性格がある。
- 政府の法的整理:国事行為ではなく皇室行事として行い、公的性格を理由に宮廷費を充てる。
- 社会的な評価:宗教的性格と公的支出の整合性について、現在も議論の余地がある。
大嘗祭をめぐる議論は、伝統文化の継承と、現行憲法における国家と宗教の関係をどのように調整するかという問題でもあります。
【2026年現在の大嘗祭】次回開催・費用・知っておきたい誤解
2026年に大嘗祭が行われる予定はある?
2026年現在、大嘗祭は定例開催される祭りではありません。2019年の令和の大嘗祭以降、次の大嘗祭は新たな皇位継承に伴って実施される性質のものです。
そのため、2026年11月時点で次回の開催日を特定することはできません。大嘗祭の日程は、次の皇位継承に関する状況や準備に応じて決まります。
2026年度の宮廷費と大嘗祭の費用は別の数字
2026年度の宮内庁予算では、宮廷費全体は120億392万円となっています。これは儀式だけでなく、国賓・公賓の接遇、行幸啓、外国訪問、皇室用財産や皇居などの施設管理を含む年間の予算です。
この金額を次回の大嘗祭の費用と捉えるのは誤りです。2019年の大嘗祭に関する27億1,900万円は、当時の大嘗祭関係費の全体想定額であり、2026年度の宮廷費全体とは別の数字です。
将来の大嘗祭の費用については、施設の規模、建築方法、参列者数、儀式の内容などによって変わる可能性があります。2019年の予算額をそのまま次回の費用とみなすことはできません。
大嘗祭についてよくある3つの誤解
誤解1:大嘗祭は毎年11月に行われる。
これは新嘗祭との混同です。新嘗祭は毎年行われますが、大嘗祭は天皇の即位後に一度だけ行われる祭祀です。
誤解2:大嘗祭と即位礼正殿の儀は同じ行事である。
両者は別の儀式です。即位礼正殿の儀は即位を公に宣明する国事行為、大嘗祭は新穀を神々に供える皇室の行事です。
誤解3:約27億円は大嘗宮の建設費だけである。
27億1,900万円は大嘗祭関係費の全体想定額です。大嘗宮の設営関係費は当初想定で19億700万円とされ、実績は12億5,500万円でした。費目と予算・実績の区別が必要です。
【大嘗祭とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:大嘗祭は何のために行われるのですか?
A1:天皇が即位後に初めて新穀を皇祖や天神地祇に供え、自らも召し上がることで、収穫への感謝と国家・国民の安寧、五穀豊穣を祈るためです。
Q2:大嘗祭はいつ行われますか?
A2:天皇の即位後、秋から冬の時期を中心に行われます。令和の大嘗祭では2019年11月14日・15日に大嘗宮の儀が行われました。毎年決まった日に開催されるものではありません。
Q3:悠紀殿と主基殿の違いは何ですか?
A3:悠紀殿は悠紀地方で収穫された新穀を供える神殿、主基殿は主基地方で収穫された新穀を供える神殿です。どちらも大嘗宮の儀の中心となります。
Q4:大嘗祭と新嘗祭はどう違いますか?
A4:新嘗祭は毎年行われる収穫感謝の祭祀で、大嘗祭は天皇の即位後に一度だけ行われる特別な祭祀です。大嘗祭は、新しい天皇が初めて行う新嘗祭に当たります。
Q5:2019年の大嘗祭ではどこの米が使われましたか?
A5:悠紀地方に選ばれた栃木県の「とちぎの星」と、主基地方に選ばれた京都府の「キヌヒカリ」が使用されました。
Q6:大嘗祭の費用は誰が負担するのですか?
A6:2019年の大嘗祭は宮廷費から支出されました。宮廷費は皇室の公的活動に必要な経費を賄う公金です。全体想定額は27億1,900万円でした。
Q7:大嘗祭は憲法違反ではないのですか?
A7:憲法20条の政教分離原則との関係について議論があります。政府は、大嘗祭には宗教的性格があるものの、公的性格を持つ伝統的な皇位継承儀式であるため、宮廷費からの支出は憲法20条3項および89条に違反しないとの見解を示しています。ただし、異なる立場からの批判も存在します。
Q8:2026年に次の大嘗祭は開催されますか?
A8:2026年は大嘗祭の開催年ではありません。大嘗祭は新天皇の即位後に一度だけ行われるため、次回は将来の皇位継承に伴って実施されることになります。
まとめ:大嘗祭は日本の稲作文化と皇室祭祀をつなぐ一代一度の儀式
大嘗祭とは、天皇の即位後に一度だけ行われる、皇室の伝統的な祭祀です。新穀を皇祖や天神地祇に供え、天皇自らも召し上がることで、収穫への感謝と国家・国民の安寧、五穀豊穣を祈ります。
中心となるのは、悠紀殿供饌の儀と主基殿供饌の儀から成る大嘗宮の儀です。その後には、白酒・黒酒などを用いた大饗の儀が行われます。2019年の令和の大嘗祭では、栃木県と京都府の斎田から新穀が供えられました。
一方、費用については全体想定額27億1,900万円という規模が注目され、宮廷費からの支出と憲法20条の政教分離原則との関係も議論されました。政府は公的性格を理由に支出を適法と整理していますが、宗教的性格をどう評価するかについては異なる意見があります。
2026年現在、大嘗祭を理解するうえで重要なのは、単なる皇室の伝統行事として見るだけでなく、稲作を中心とした日本の文化、皇位継承の歴史、そして現行憲法のもとでの国家と宗教の関係という三つの側面から捉えることです。
古代から続く祭祀でありながら、歴史の中では中断や再興も経験してきた大嘗祭。その意味と制度上の位置づけを正しく知ることは、日本の皇室制度と伝統文化を理解する手掛かりになります。
主な参照資料:宮内庁「ご大喪・ご即位・ご結婚などの行事」「大嘗宮について」「平成31年度歳出予算政府案の概要」、参議院の2019年政府答弁書、衆議院内閣委員会会議録、國學院大學、皇學館大学佐川記念神道博物館、下野新聞、宗教情報リサーチセンター。